シナリオライターになりたい人のためのブログ。

あんこといんことうんこの境目が知りたい。

シナリオ監修とゴーストライター

ゴーストライター

 

作曲のゴーストライター問題。

小説家のゴーストライターをテーマにしたドラマ。

などがあったので、結構有名な言葉になった気がします。

 

これ、ゲームのシナリオライターにも関係するの?

 

と問われれば、無関係とは言い切れない…です。

実際に私も似たような経験をしているから。

 

 

そして、誰かに同じような経験をさせているかもしれない…から。

 

 

 

これは、一概にスッパリと良い悪いと分けられる問題じゃないです。

こういうことが起きてしまう、ということを

経験者の人なら分かってると思いますが

初心者の方はちゃんと分かってないかもしれないので

『監修』というお仕事について触れておきます。

 

監修とは、

シナリオライターさんに書いてもらったシナリオが

テーマに沿っているか、クオリティに問題ないかをチェックして

修正の指示を出したりして、

最終的なシナリオの出来に責任を持つ仕事です。

 

単純な誤字脱字程度なら大きな問題ではないのですが、

設定を勘違いして、名前の文字が違っていたり…

マントしてないキャラなのに度々マントを翻す描写があったり…

人間と人間のやり取りである以上

単純ミスはあるし、意思の疎通がうまくいかずに

勘違いしたりということで

修正を入れることはあります。

 

ライターの立場として、

こういう修正指示がないように資料をよく読む、

読んでつまづいたところは質問する、

ということを心掛けることは言うまでもないです。

 

けれど時々、呼称表はこういう表記なのに、

キャラ設定表では違う表記で書かれてる…とか、

資料にミスがあったりします。

 

これは発注側の立場からすると、

資料をまとめながらどんどん発想が膨らんで、

そのたびに設定を変えたりとかしているせいで

途中過程の表記が残る、ということがあり

 

外に渡す前に今一度資料を見直す必要があると、反省します。

(出来れば2人くらいで相互チェック)

すみません。

 

でも、でも…企画練っている途中にキャラデザ担当に話をしていたら

設定が膨らんでその場で変更とか、

システム側からの要求で内容を一部削除したりとか、

そういうこともあって、現場で共有している意識と、

外注の人へ渡す資料に齟齬が出てしまいがちなんです…。

言い訳して、すみません。

 

ここまでは事前にチェック。

または、すでに出した後に変更になったら、

すぐさま外注の方に連絡をする、

という作業を入れれば比較的防げることかなと思います。

 

ただ、分かり切った単純ミス以外のことが

往々にして起こるのが現実世界。

 

「前にお仕事を頼んだとき、いいシナリオ書いてもらったから」

「実績も十分にある人だし」

 

さまざまな条件から、新しく考えた企画のシナリオを

シナリオライターさんにお願いしたとします。

けれど、いざ書いてもらったら、

 

『そのまま使用するには問題がある』

 

…そんな状態のシナリオが上がってくることがあります。

これは、様々な問題が含まれてるので

 

受けたライターが悪い、発注した担当が悪い…とは言い切れません。

 

イラストであれば、見れば一発で分かることも

シナリオだけは書き上げてもらわなければ分からないことが

いっぱいあります。

(恋愛系を例にあげていきます)

 

短編で、1シチュエーションで甘いシナリオが得意な方に

100KB(5万字)の長編をお願いしたら、

物語の大きな盛り上げ方、少しだけ切なくしてヒキをつくる方法、

などの技術が不足していた。

 

俺様キャラでは活き活きとキャラクターを動かしてたのに、

知的クールキャラでは、キャラの魅力がまったく活かせていなかった。

 

こういう問題は、

フリーのシナリオライターに常につきまとう不安 - ゲームをつくる人のブログ。

この記事でも書きましたが、

ライターが自分の得意、不得意を見極めきれていない

ということも関わってくると思ってます。

 

うん、でも、なかなか人間って、自分を客観的に見るって

できなかったりするもんじゃないですかね?

そんな冷静に、分析するのは難しいと、本当に思います。

だから、何が悪い、とは断定しません。 

 

さあ、それでは、依頼してシナリオが来たとして

そのままでは使えない、となったときに

どうするかということです。

 

まずは問題の箇所に修正依頼を入れてお返しすることになります。

私が監修をするときは、どうしてその表記が問題なのか、

こちらとしてはどうしてほしいのか、

なるべく細かく書くようにしてます。

 

1行の修正をしてもらうのに、

6行以上のコメントを書くということもあります。

正直、これをするなら自分で書き換えたほうが早いんですが

それ以降のシナリオを書くときに気を付けてもらい、

同じ修正指摘を繰り返さずに済むようにしてもらいたいのと、

言いたいことが間違って伝わらないようにと思うからです。

 

ただ、監修してるときに、

自分がライターさんの意思を汲み取り切れずに、

勘違いした修正依頼を出してしまうこともあることを…

反省して、ごめんなさい、と言っておきます。

 

監修してるときの苦労や反省は、また新たに書くとして…

ここで書いておきたいのは、

 

根本的にどこも拾えないシナリオがやってきた場合。

また、第一稿に修正依頼を出して、第二稿で、

こちらの指摘をまったく汲み取ってもらえなかった…場合、

そのときはもう、ライターさんに再度依頼を出すことが躊躇われ、

ほぼほぼ書き換えてしまう、ということになります。

監修者がシナリオを書けない場合は、他のライターさんにお願いして

書き直してもらうということもあると思います。

 

ここで、タイトルにあげた『ゴーストライター』問題が発生します。

 

私が昔、ディレクターさんからの指示で、シナリオの修正をしていたとき

第一稿を書いたのは、有名なゲームでシナリオを書かれていた方で、

無名の私より知名度がありました。

 

そんな大先輩にあたる方だから、と背筋を伸ばしてシナリオを読んだら…

依頼したゲームのテイストとはまったく合っていませんでした。

 

根本がズレているので、どこかを直せばいいという問題ではなく

ほとんど私が書き直すことになりました。

 

そうやって必死に修正をしているとき…

ゲームの宣伝が雑誌に掲載されました。

 

その中に、今、まさに修正を入れているシナリオを書かれたライターさんの

「色々と苦労しましたが、とても楽しく書かせていただきました」

というコメントが載っているのを見てしまった。

 

あ…ああ…。

お、おい…(汗

あぱぁ…(笑

 

と、まあ、魂が半分抜け欠けた状態で軽い笑いが出てしまいました。

 

第一稿の中で残せる部分は1セリフか2セリフくらいで

そのほかの部分を書き直しという状態でしたが、

あくまでそのシナリオを書いたのは、

私よりも実績のあるそのライターさんです。

 

ゲームの価値をあげるため、無名のライターが書いたというより

そのほうがずっと効果があるのは事実です。

何より、宣伝を担当する人からしたら

現場がどうなっているかを逐一把握してたら大変です。

 

まあそんな事情があると今なら思えても、

そのときは余裕もなくて悶々としつつ、

修羅場だったのでとにかくシナリオを終わらせるしかない! と、

仕事に集中してました。

そうして終わって、発売を迎えた後…。

 

刺さった棘が、じくじく痛んできました。

 

「苦労したのは私なのに、なんで」

 

という、やるせなさを抱え、しばらく腐ってました。

そんな頃、知り合いのサウンドクリエイターの方と

ゴールデン街へと飲みに行くことになり・・・、

そこで、自分の悔しさを吐き出してしまいました。

そうしたら…

 

「俺も映画のBGMをやったんだけど、名前が載ることはなかったよ。

最初に請け負った作曲家が締め切り守れなくて回って来た仕事で、

エンドロールに載った名前は、その作曲家のものだけだった」

 

という経験をしたことを、聞かせてくれました。

往々にして、そういうことはどこにでもある話なんだな・・・と思い、

やっぱり悔しいですよね? と同意を求めたら

 

「俺は有名になりたいんじゃなくて、仕事がしたい。

名前が載らなくても、話を振ってくれた人の期待に応えて

実績はつくれたから損はしてない」

 

そんな答えを聞いた瞬間、あ…と、

凝り固まってた負の感情がスルスルと解けていくのを感じました。

そして、この人は、自分なんかよりずっと上を見ているんだな、と

尊敬の念が湧いてきました。

 

私は、満足いく仕事をすることより

有名になりたい、という欲望に捕らわれていたことに気付かされたんです。

このことにずっと捕らわれ続けていたら、

私は健全な気持ちで前に進めなかったと思います。

 

まあ、といっても有名にはなってお金欲しいというのは本音です(笑

 

ともかく、前向きに開き直るきっかけになったなあ…と。

振り返ってみると、とても貴重な経験が出来たと、今では感じます。

 

何だか自分が損をしてる。

何だかすっごく、納得いかない。

 

そういう理不尽なことは、シナリオライターに限らず

どんな仕事でもあると思います。

 

だけど、一方的に誰が悪い。何が悪い。

と断定すると、その考えに執着している自分も疲れてきます。

何でそんなことが起きたのか? いろんな角度から

仮説を立てながら背景を考えてみると…

違うものが見えてくるかも。

 

というお話でした。